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第九話 戦いたくない相手②

last update 최신 업데이트: 2025-06-18 17:31:45

 確かに、雛は宇随と一戦交えたいと思った。

 しかし、それはこの試合ではない。

 トーナメント戦で一度でも負ければ、それは不合格を意味する。

 神威と宇随にだけは、当たりたくなかった。

 一緒に新しい世をつくっていくメンバーになりたいと強く思っていた。

 二人とも実力と人格ともに申し分ない。

 これからの世の中に必要な人たちだ。それを雛は誰よりも強く感じていた。

 ここで宇随が不合格になることを、雛は望んでいない。

 ――しかし、ここで負けるわけにはいかない。

 雛がボードの前で立ち尽くしていると、後ろから宇随が声をかけてきた。

「こうなっちまったもんはしかたない。

 雛、手加減なんかするなよ。正々堂々と行こうぜ!

 どっちが勝っても負けても、恨みっこなしだっ」

 宇随が笑顔を向けてくる。

 その微笑みに、雛は少し心が軽くなるのを感じる。

 しかし、それと同時に、どうしても宇随との戦いに前向きになれない自分がいることも、雛は自覚していた。

 試合開始まで雛はベンチに座って一人考え込んでいた。

 宇随はこれまでの者たちとは格が違う。

 手加減して勝てる相手ではない。

 しかし、宇随相手に本気で戦うことができるのか……。

 そこへ、神威が近づいてくる。

 何も言わず、彼は雛の隣に静かに腰を下ろした。

 そのまま神威はしばらく黙り込んでしまう。

 雛は少々戸惑いつつ、神威の様子を覗うようにそっと横目で見た。

「迷っているのか?」

「え?」

 突然そう問われ、雛は驚いて神威の方へ顔を向ける。

「高橋宇随のことだ。

 おまえたち仲が良いだろ? だから悩んでいるのかと思ってな」

 私の方は見ず、まっすぐ前を見つめ淡々と話す神威。

 心配してくれているのだろうか。

 雛はなんだか嬉しくて、神威に心の内を話してみたくなった。

 彼なら受け止めてくれる、そんな信頼があった。

「不安なんです。宇随さんのこと好きだから、本気で戦えるか自信がなくて」

「……好き?」

 神威がそこだけ強調して念を押す。

 雛はいたって普通のことだというように答えた。

「はい、私は宇随さんのこと好きです。あ、もちろん神威さんも好きですよ」

 雛があっけらかんと微笑むと、神威はなぜかあきれた顔をする。

「はぁ……あのな、反対の立場になって考えてみろ。

 おまえが宇随に手加減されて、それで勝ったとしたら嬉しいか?」

「嫌です!」

 雛の即答に、神威が小さく微笑んだ。

「それなら、もう答えは出てるだろ」

「そうなんですけど……」

 まだすっきりしない様子の雛に、神威はため息をついた。

「前の試合で学んだんじゃないのか、勝負に情けは必要ない」

 真剣な表情でそう告げる神威。

 その視線を受け止め、雛はまた考え込む。

 確かに、手加減することは相手に失礼なことだ。

 それに、自分だって絶対負けられない理由がある。

「ま、最後はおまえが決めることだがな」

 そうつぶやくと、神威は立ち上がった。

 もう行ってしまうのかと雛は寂しく感じ、視線を向ける。

 神威の背中はとても大きく感じた。

「俺は、おまえとこの先も共に戦っていきたいと思う。それが叶うことを祈ってるよ」

 そう言い残し、神威は雛に背を向けたまま行ってしまった。

 残された雛は下を向き、小さく震えていた。

「嬉しい……」

 神威にあんな風に言ってもらえたことが、雛はこの上なく嬉しかった。

 雛にとって神威は尊敬でき信頼できる剣士だ。そんな相手が自分を必要としてくれた。

 共に生きようと誘ってくれた。

 なんと幸せなことか。

 雛は顔を上げる。

 その目つきは、先ほどのものとは違っていた。

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